最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)1511号 判決 1951年3月16日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人大西宇治郎の上告趣意について。
論旨は被告人が本件には全然関係のないことを詳細に述べているのであるが原判決挙示の証拠によって判示事実を認定することができるのであるから結局事実誤認の主張に帰し上告適法の理由とならない。
被告人大西宇治郎の弁護人鍛冶利一、小玉治行の上告趣意第一点及び弁護人小玉治行の上告趣意第一点について。
明治二二年法律第三四号決闘罪に関する件第一条には「決闘ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ応シタル者」と規定しているから決闘応挑罪が成立するには応挑の意思表示が挑発者の認識に到達することを必要とすることは明かである。ところで原判示第二の事実は相被告人阿南は前項掲記のとおり(即ち判示第一に記載するとおり)昭和二二年二月一〇日午後七時頃前記大川茂方二階の一室で被告人杉本及び大川茂側から被告人大西及びその輩下の者を相手として同日午後九時を期し別府市境川で決闘を実行しようとの申出を受け決闘を挑まれるやただちにこれを諒承した事実を確定しているのである。そして判示第一事実によると二月一〇日午後七時頃被告人阿南が被告人大西側を代表して大川方に来て同家二階の一室で被告人杉本同阿南及び大川の三名が火鉢を囲んで対座するに及び被告人杉本は大川と共に被告人大西及びその輩下の者を相手として決闘しようと決意し被告人阿南が喧嘩をせず何とかならぬかと申出でたのにかかわらずもう既におそいと申向け、被告人阿南の右申出を言下に一蹴し、被告人大西側を代表する被告人阿南に対し大川と共に果し合いの場所は別府市境川、時刻は同日午後九時、使用すべき武器は双方共随意としようとの旨申し向けた事実が確定されているのであるから前記判示第二において阿南が決闘を挑まれるやただちにこれを諒承したというのは阿南が大西側を代表して決闘を応諾した趣旨であることは明らかである。そして原判決の挙示する証拠中被告人杉本治一に対する検察補佐官の聴取書に同被告人の供述として判示の日午後七時頃阿南が参り大川方の二階の一室で火鉢を囲み私や大川と対座して「喧嘩の場所を何処にするか」といい、私と二、三回押問答をしているうち大川が阿南に一寸待て、お前それでよいのかというと阿南はもう詮方がないと申した、大川が私に杉本お前から場所を決めよと申すので私が松原公園に来いというと阿南が明るいところは悪い、暗い所にきめてくれというので大川が横から暗い所なら境川がよかろうといい出し私も阿南も場所は境川ときめた、すると阿南は時間は何時にするかというので私が十二時でも一時でも好いというと大川が十二時は遅い九時がよかろうというので双方共九時ときめた、それから阿南が道具(凶器)は何にするかというので私が道具は随意にしようというと阿南も承知して午後九時境川で大西側対私共と果し合いをすることにきめたとの記載があるのであって阿南が杉本、大川等の決闘申出でに対してこれを応諾し決闘の時間、場所、武器を協定したものであることは証拠上明らかなところであるのみならず阿南が大西側を代表する権限のあったことも原判決挙示の証拠によってこれを認めることができるのである。次に原判示によると右の如く大西側を代表して決闘の応諾をした阿南は大西及びその輩下の者にその旨を報告し被告人大西は先方がやるというならやるより仕方があるまいと言明し決闘に赴くべき者を決定し(続いて判示第三事実のとおり諸般の準備をしているのである)たというのであって被告人大西及びその輩下の者は大西側を代表して決闘応諾の意思表示をした阿南の行為を確認して決闘の決意をしその準備をしたことが認められるのであるからかかる場合には阿南の意思表示によって決闘応諾の意思表示が挑発者たる被告人杉本、大川側に為されたものと解すべきである。然らば原判決が判示第二の事実を決闘応挑罪として問擬したことは正当であって論旨はいずれも理由がない。
弁護人鍛冶利一、小玉治行の上告趣意第二点第三点及び弁護人小玉治行の上告趣意第二点について。
決闘とは当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもって争闘争する行為を汎称するのであって必ずしも殺人の意思をもって争闘することを要するものではない。しかし決闘にも殺人の意思をもって為されるものもあり得るのであるからその場合には決闘の罪の外殺人の罪の成立とすることは前記決闘に関する法律第三条に「決闘ニ依テ人ヲ殺傷シタル者ハ刑法ノ各本条ニ照シテ処断ス」とあるのによっても明らかである。それゆえ殺人の意思をもって決闘の準備をした場合には殺人予備罪が成立するものといわなければならない。原判決が判示第三の事実を殺人予備罪としたのは決闘をもって直ちに殺し合いと即断したからではなく、証拠によって本件決闘については殺人の意思であったと認定した結果である。そして原判決の挙示する証拠によって右の事実認定をすることができるのであるから、原判決には所論のような違法なく論旨はいずれも理由がない。
弁護人鍛冶利一、小玉治行の上告趣意第四点について。
しかし原判決が被告人大西に対して処断した犯罪は判示第二の決闘応挑罪と判示第三の殺人予備罪であって、それはいずれも大川等の殴り込み即ち判示第四の乱闘以前のことであり判示第三の決闘の準備行為と判示第四の乱闘とは法律上関連のない行為であるから判示第四の事実を引用して判示第三の行為が正当防衛であり、防衛行為であるとの主張は全く理由がない。
被告人杉本治一の弁護人堤牧太の上告趣意第一点について。
しかし所論は原審の適法にした証拠の判断及び事実の認定を非難するに帰し、上告適法の理由とならない。
同第二点について。
しかし原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示の事実を認定できるのでるあるから所論は証拠の判断及び事実の認定を非難するに帰し、上告適法の理由にならない。
同第三点について。
しかし原判決挙示の証拠を綜合すると原判示の如く被告人が大西側を代表する阿南に対し本件決闘を挑む意思を表示し阿南をして被告人大西及びその輩下に伝達させた事実を認定できるのであるから論旨は採用できない。
同第四点について。
しかし原判決挙示の証拠によって判示事実は十分認定し得るのであるから論旨は採るを得ない。
同第五点について。
しかし阿南に対する司法警察官の聴取書の供述記載を採るか公判廷における供述を採るかは、原審の裁量に委されているところであるから所論は原審の裁量に属する証拠の採否事実の認定を非難するに帰し上告適法の理由にならない。
同第六点について。
しかし所論の公判供述は原審の採用しないものであるから所論は結局事実誤認の主張に帰し上告適法の理由にならない。
同第七点について。
しかし原判決挙示の証挙中証人大川忠明の供述によって本件決闘の場所が特定していることが認められるのであるから論旨は理由がない。
よって刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)